大脳辺縁系

脳辺縁系(だいのうへんえんけい、英 limbic system: limbicの語源のラテン語であるlimbusは、edge すなわち「辺縁」の意である)は人間の脳で情動の表出、意欲、そして記憶や自律神経活動に関与している複数の構造物の総称である。

辺縁系に含まれる皮質下の核

これに対して、辺縁系に含まれる皮質下の核には、扁桃体、中隔核、視床下部、視床の前核などが含まれる。視床下部は辺縁系に含まないこともあり、この場合には、辺縁系が視床下部の上位中枢と見なされる。

扁桃体 amygdala:攻撃性や恐怖に関与している

視床下部 hypothalamus:ホルモンの産生と放出により自律神経機能を調節している。血圧、心拍数、空腹、口渇、性的興奮、そして睡眠<参考不眠>・覚醒のサイクルなどに関与している。

乳頭体 mammilary body:記憶の形成に重要である。

側坐核 nuculeus accumbens:脳内報酬系、快楽、そして薬物依存などに関与している。

線維連絡

これらをつなぐ線維連絡として、脳弓、脳弓交連などがある。

機能

大脳辺縁系は、内分泌系と自律神経系に影響を与えることで機能している。大脳辺縁系は、側座核といわれる構造と相互に結合しており、これは一般に大脳の快楽中枢として知られている部位である。側座核は性的刺激、そしてある種の違法薬物によって引き起こされる「ハイ」な感覚と関連している。こうした反応は、辺縁系からのドーパミン作動性線維の投射によって強い修飾を受けている。金属電極を側座核に挿入したラットは、この部位への電気刺激を引き起こすレバーを押し続け、食物や水の摂取をせずに最終的には疲労によって死んでしまうことが知られている。

辺縁系の発達

進化論的には、大脳辺縁系は脳の最も古い部位の一つであり、嗅葉orfactory lobesと関連している。魚類ではすでに辺縁系を見ることができる。動物が高等になるほど新皮質の占める割合が大きくなるのに対して、辺縁系の発達にはあまり差がなくなる。これは辺縁系が動物に共通な機能に関係しているからである。

実生活での応用

大脳辺縁系機能が刺激されている人は、記憶の保持と想起が助けられる。例えば、辺縁系は嗅覚機能と強い関係があるので、記憶の形成される際にコーヒーやピーナッツバターなどの(あるいは、プルーストの言うプティット・マドレーヌでも良かろうが、)容易に認識されるような芳香が存在すると、そうした記憶と芳香は結合される。そのため、同じ匂いは記憶の蘇りを促進することになる。つまり、テスト勉強中にコーヒーを淹れていたならば、テストの合間にコーヒーを飲むことによって、テストに必要な情報を思い出すことがより容易になるかもしれない。

辺縁系の病理

古典的な辺縁系障害の病態に、クリューバー・ビューシー症候群がある。これは実験動物の、扁桃体を含む両側側頭葉の切除により観察される症候群であり、精神盲、口唇傾向、性行動の亢進、情動反応の低下などが見られる。そのほかにも、統合失調症やパニック障害、各種の認知症など、さまざまな疾患の病態生理に大脳辺縁系が深く関わっていることがわかってきている。